さまよい読書喫茶室

趣味についてまったり語りたいです。

『声が世界を抱きしめます』で谷川俊太郎が語ったこと

こんにちは。たまたまこの本を手に取って読みました。『生きる』という有名な詩や『ともだち』という絵本の詩を担当されている、谷川俊太郎先生(以下敬称略)の合唱講座とインタビューをまとめた内容のようなのですが、とても興味深かったので、中身についてお話をします。

 

 

まず『合唱』という新作の詩がすばらしい!

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聖堂(Erich WestendarpによるPixabayからの画像)

 合唱

 

ひとりで歌っています

小鳥のさえずりとともに

木々が聞いてくれるので

声はどこまでも空へのぼる

 

ふたりで歌っています

互いのこえで歌を織って

冷たい風から心を守る

歌は生まれかわります

 

みんなで歌っています

見えない声のオーロラが

幻のように心に広がり

声が世界を抱きしめます

 

私の声ではありません

あなたの声でもありません

合唱の声は人間を超えて

宇宙の始まりに近づきます

 

(声が世界を抱きしめます P.2-P3より 2018年3月書き下ろし)

 

この本のはじまり、唐突とも言えるほど序盤に、『合唱』というタイトルの詩が載っています。2018年3月書き下ろしということなので、自分の体感で言えばかなり最近の詩になります。自分の知らないところで既に合唱曲化されているかも知れませんね…!

 

『サッカーによせて』を書いたのにサッカーを知らない!

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サッカーボール(Michal JarmolukによるPixabayからの画像)

 ご存知の方も多いのかも知れませんが、P.25にもあるように、本人いわく

サッカーって見たことも、したこともないんですよね。

それで素晴らしいサッカーの詩が書けるって、どういうことなんでしょうか!?谷川俊太郎の頭の中は、想像力は無限大だなと感服するほかありません。

 

『信じる』という詩、でも詩は美辞麗句にすぎない

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女性(LoveToTakePhotosによるPixabayからの画像)

P.98あたりの文章の中で、横山教授と谷川俊太郎が交わした対談で、特に印象に残ったものがあります。それは『信じる』という詩についての話です。

横山教授が

「自分にうそがつけない私」というのがありますよね。この辺になると、多少後ろめたさを感じながら、「そんな私を私は信じる」と。

谷川俊太郎

「基本的に詩は美辞麗句なんですよ。だから、全然心配しなくていいんです。」「でも、たしかにおっしゃるように、こういうこと本当は自分ではやってないなってことをいっぱい書いていますね。」

と答えるので、横山教授は「それを聞いて、すごく安心しました」と。

 

実は自分自身も、合唱で『信じる』を歌った時に、「私は私を本当に信じられているのだろうか?」とずいぶん自問自答しました。今も答えが見つかっていなかった問いだったので、自分もすごく気持ちが楽になりました。

 

アジテーションシュプレヒコールプロテストソング

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抗議活動(stuart hamptonによるPixabayからの画像)

P.142あたりで訳が分からなくなってきたのですが、アジテーションシュプレヒコール、どちらも扇動という意味合いみたいですね。プロテストソングというのも抗議の歌という意味のようで。ほかにも話中に難しい言葉がわんさか出てくるので、特殊な語彙を自らのものにされているんだなあと、感嘆するばかりでした。

 

まとめ

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鳥(Jill WellingtonによるPixabayからの画像)

谷川俊太郎のたくさんの詩、有識者たちで行われるディスカッション等々、自分がピックアップしたところ以外にもたくさん勉強になることが書かれていたので、本文を全部読むことをおすすめします。谷川俊太郎について興味がある人、合唱や詩について興味がある人は特に面白く読めるのではないかと思います。

ちなみに「声が世界を抱きしめます」というタイトルは『合唱』という詩の一節から付けられていますが、詩の中の全てのことばが素晴らしいので、ぜひ冒頭にかえってもう一度読んでみてください。